AI翻訳はビジネスの言語を変革するか?

人工知能が国際的なビジネス翻訳を席巻すると予想されている一方で、人間は今後もトーン、感情、文化の翻訳者としての役割を果たします。

Wikipediaなどのパラレルテキスト(対訳テキスト)・データセット、欧州議会の報告書、南アジアからの電話の文字起こしなどの支援を受けて、機械学習はついに、翻訳ツールが人間の通訳者に匹敵するレベルにまで達しました。
One Hour TranslationのCEOであるオフェル・ショシャン氏によれば、ニューラルマシン・テクノロジー(NMT)による翻訳は、1~3年で世界の翻訳市場の50%の仕事を行うことが可能になるといいます。

さらに10年から12年後には、機械翻訳技術は人間と同等のレベルに達し、その後はそれを最終的に上回るでしょう。

NMT翻訳はまだ主流とは言えないかもしれませんが、Google、Microsoft、Amazonなどの世界の大企業が、自社のソフトウェアと熟練した翻訳者や翻訳会社との間の、翻訳能力の差を埋めようという魅力的な競争に参加しています。

AI翻訳はビジネスにおいてもっとも普及している

複数の技術系の大企業が自社のSkypeツール、翻訳アプリ、スマートスピーカーの機能を、外国市場に進出しようとしている企業にとって必要不可欠なものとして位置付けているため、ビジネスの分野はAI翻訳の誕生以来主要なユースケースとなっています。

Waverly Labs社のPilot、Timekettle社のWT2、Mymanu社のClikなど、ウェアラブル技術のスタートアップもインパクトを残しており、こうした企業が昨年のGoogle Pixel Budsによって生じたスペースを埋めようと競合しています。Google Pixel Budsは設計がひどく、接続したAndroidスマートフォンに依存しすぎていると批判されたためです。スマートイヤホンでAlexaと通信したり、話しかけたりする行為は、普段の観光の時よりは、クライアントとのミーティングにおいて、はるかに役に立つでしょう。

そのため、サービス業、小売業、警察機関などが人工知能翻訳の実験を行っており、医療や金融分野においても、翻訳がそうした専門的分野向けに調整されれば、その使用は増加すると見込まれています。

「10年から12年間で、私たちは機械翻訳がまったく利用できなかった状態から、今日のAI翻訳のレベルにまで進歩しました。それは完璧なものではありませんが、ほとんどの場合とても素晴らしい翻訳を行います」とニューヨークに拠点を置くスタートアップWaverly LabsのCEO、アンドリュー・オチョア氏は言います。「さらに10年から20年後には、機械翻訳技術は人間と同様のレベルに達し、その後はそれを最終的に上回るでしょう。その実現は難しくはありません。」

同時通訳が次なる開発分野

オチョア氏がAI翻訳エンジンの次の開発段階として予想しているのが、フレーズを基礎とした会話翻訳から同時通訳への移行です。これは同分野の究極の目標ともいえるものです。

ローンチされる1月ごろにはリアルタイムの対面による翻訳を行うことが見込まれている、WT2イヤホン翻訳機の初期のデモの結果から、少なくとも2019年と今後の数年間に関しては、スピードと正確性の間にはトレードオフの関係があるようです。とはいえ、こうした技術は急速に発展しています。

一方で、バーチャルのコミュニケーションに向けては、Business OnlineとOffice 365のためのSkypeの事業であるMeeting Broadcastを使ったリアルタイムの文字起こしと翻訳のサービスが、パブリックプレビューとして公開されています。この機能はMicrosoft Translatorの提供する60の言語のうち、10言語で利用可能です。Google翻訳は現在ももっともグローバルなシステムです。100以上の言語で使用可能で、音声・会話モードでは32言語に、視覚翻訳では40以上の言語に対応しています。Pixel Budsは失敗しましたが、Googleは10月に、アシスタントにより最適化されたあらゆるヘッドホンとの互換性をGoogle翻訳に持たせました。

AI翻訳は言語の感情・文化的な要素をまだとらえきれない

今後10年で技術はより賢くなり、エラーは減っていくものの、ある重要な限界を超えることはできないでしょう。そのため、仕事の現場での言語翻訳に関して、人間が果たすべき役割が常にあると考える専門家もいます。

ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの、ビジネス中国語とビジネス文化のプログラムディレクターであるキャサリン・フア・シーアン博士は、それには三つの理由があると言います。一つは、言語の意味は常に文脈に左右されるということ、次に言語は人間の感情と強く結びついており、そのため微妙なトーンや声の変化が意味に大きく影響すること、最後に言語は文化から切り離すことができないということです。

「例えば、中国のビジネスにおける主人と客の関係では、主人は客を熱心に招待して、より多くの食べ物を食べてもらうように強引に勧めることが定義正しく、必要な行為だと考えられています」と博士は言います。「これは誠実さとホスピタリティを示すために必要不可欠だとみなされています。中国人は招待をする際には『絶対に来てください』と誘い、ビジネスの会食の際には『食べてください』や『もっと食べて。まだ食べたりないですよ』といった命令形を使います。これは命令のように聞こえますが、この特定の状況ではそういった意味は全くありません。」

シーアン博士によれば、文化の伝達はあらゆる翻訳作業における課題です。博士は、多くの企業は、文化的理解がビジネスへのアプローチに対して与える影響について、完全に理解していないと考えています。

データの不均衡により翻訳に適する言語と適していない言語が生まれる

AI翻訳における別の障害としては、言語そのものがあります。ヨーロッパ言語は日本語や中国語と比較して、AI翻訳ツールとの相性がよい傾向があります。10年間でそれらの言語と同等のレベルにまで向上することが見込まれるのは、すでに利用可能なデータセットが豊富にある対訳言語の組み合わせだけでしょう。「アムハラ語やハイチ語のような、リソースが少ない言語は、そうした言語を新しいモデルに取り込むために利用可能な専用のリソースがないため、翻訳は困難になるでしょう」とオチョア氏は言います。

AI翻訳がビジネスの場面に導入されたとしても、人間の翻訳家は、文脈、感情知能、文化理解の点で価値を提供するだけでなく、例えばNMT翻訳をサポートして、翻訳会社のワークフローの中でテキスト翻訳をチェックし訂正するといった点でも貢献することができます。さらにオチョア氏は、人間の通訳が疲弊し、長いセッションの間に正確性が低下する一方で、AIツールは、初めは正確性が比較的劣るとしても会議や文字起こし中に時間をかけて改善していくと指摘しています。

例えNMT翻訳が今後10年で人間の正確性とパフォーマンスに肩を並べたとしても、人間の翻訳家は今後もビジネスに貢献し続けることができそうです。「潜在的なビジネスパートナー、クライアント、顧客と効果的に意思疎通をするためには、企業は何を伝えて、どのように意思疎通を図るべきかを知る必要があります」とシーアン氏は言います。「その際に文化的な知識と理解が役に立つのです。コミュニケーションの際には文化ごとにアプローチが異なります。ある特定の文化における意思疎通の方法やその中心的な価値を理解しておくことで、友好的な関係性を築き、より多くのビジネスで成功をおさめることができるでしょう。」

 

この記事は、Raconteur に掲載された「Could AI translators change the language of business?」を翻訳したものです。