アクティブなコンテンツは、あなたを深く知り、あなたにぴったりの物語を紡ぎだします。

最高のストーリーテラーは観衆に反応します。 彼らは笑顔、畏敬の念、退屈を探します。

彼らは物語を話しながら、観客の様子を巧みに読み取るのです。

モトローラのヒューマンインタフェースラボで働いている熟練のストーリーテラー、ケビン・ブルックス氏は、「物語を始める際には、観客のエネルギーに応じて話し方を調整する必要があります。 このエネルギーに基づいて、彼らは姿勢、タイミング、特性、時にはストーリーの出来事さえも調整します。 聴衆とストーリーテラーの間には対話があるのです」と述べています。

マドリッドに拠点を置くストーリーテリング会社、Future Lighthouseの最新VR体験であるMelitaの脚本を私が読んだ直後、CEOのNicolas Alcalá氏は、この作品は彼がSingularity Universityでの学生時代から取り組んでいた概念である「リアクティブコンテンツ」の一例であると私に説明しました。

我々は歴史上初めて、口頭のストーリーテリングの反応的で感情的な要素をデジタルメディアのアフォーダンスと融合させるテクノロジーにアクセスすることが可能になりました。そうした技術は、ストーリーを語る際の迫力のあるビジュアル、豊かなサウンドトラック、複雑なメタナラティブを生み出みだし、さらには過去のどんなストーリーテラーよりもあなたのことをよく知ることができます。

こうしたストーリーテリングの可能性は驚異的だと言っても過言ではありません。

要するに、生体リズム、感情、嗜好、データポイントに基づいてユーザーに語りかけ、反応を示すコンテンツを、私たちはリアクティブと呼ぶことができます。 人工知能は、ユーザーの行動や嗜好を分析してユニークな筋書きと物語を作成するために使用され、聴衆の性格や感情に基づいてリアルタイムに変化するストーリーを可能にします。

リアクティブなコンテンツの開発により、業界で働く人々は、口頭でのストーリーテリングの本質を単にVRに変換するだけでなく、一歩前進させることができます。リアクティブなコンテンツは、あなたに物語を読み上げるデジタルストーリーテラーとの体験をもたらすのみならず、あなたを深く知っているストーリーテラーとの出会いを生み出す可能性があります。

つまり、視聴者にとって特定の意味を持つマイナーな個人的情報を物語に巧妙に入れ込むことができます。友人と話すとき、過去に共有した経験や共通の知識を使って、物語をできる限り共感のできるものにすることがよくあります。個人的な思い出と私たちの生活の側面をターゲットにすることは、感情に働きかけ、物語を視覚化するのに非常に効果的な方法です。それを過去の体験を基にしたビジュアル、音楽、および登場人物を使って行うができれば、個人への関与性が圧倒的に高く、感情的に満足度の高いコンテンツが作成できる可能性があります。

Future Lighthouse社によると、現在のところ、リアクティブなコンテンツは、呼吸、心拍、および眼球などを追跡するセンサーといった生態測定フィードバック技術を主に活用しています。簡単な例としては、環境や音の広がりが、ユーザーの鼓動や呼吸に応じて変化したり、あなたが集中していない時にキャラクターが呼び掛けてくるなどの活用方法があります。

次のステップは、ユーザーの感情に反応するキャラクターおよび状況であり、そこではアルゴリズムが生態情報を分析してユーザーの感情を推測し、それに対して反応を示します(「なぜあなたはそんなに緊張しているのですか?」など)。もう1つの例は、感情喚起パラメータの実装です。視聴者はVRホラーストーリーにおいて恐怖のレベルを好みに合わせて選択でき、その後にアルゴリズムが生態フィードバックデバイスの情報を使って恐怖経験を調整してくれます。

同社の長期目標は、ストーリーテリングに関する慣習や約束事を集め、物語の「ワイヤーフレーム」カタログを制作することです。様々なジャンルの基本構造を抽出することで、個人の詳細データ、嗜好および生態情報に基づいて、個別のユーザーに応じてビジュアル、キャラクターの特質、音声を具体的に作成していくことが可能になります。

リアクティブなコンテンツの開発は、ストーリー分岐、動的なストーリーライン、そしてこれまで映画界にあまり影響を与えていなかったマルチナラティブ(複数の物語)の新たな探究と並行して行われるでしょう。理論的には、変化していく物語を体験するというアイデアが非常に魅力的である理由は、私たちの恋愛が偶然の出会いや予測不可能性を含んでいるからであり、これは、文化理論家のアーサー・クロッカー氏が「ハイパーテキスト的な想像力」と呼ぶものです。こうした日常から抜け出し未知の領域に足を踏み入れたいという感情は、人生がどんな瞬間でも刺激的で予期せぬ変化を遂げる可能性があると私たちが考えていることの表れだと解釈することができます。

主流文化でこうしたコンセプトが生まれたのは、70年代後半に始まった古典的なChoose Your Own Adventureのシリーズにまでさかのぼります。リアクティブのコンセプトは活字では大成功を収めましたが、それを活用した映画はやや印象の薄いものとなっています。 I’m Your Man(1998)やSwitching(2003)のようなDVDは、シーン選択ツールを使用してストーリーラインの方向を決定します。

より最近の例ではKino Industriesが挙げられます。同社は、映画製作会社が対話型映画の制作を可能にする技術を開発したとしており、そうして作られた映画では、視聴者は作品を通して様々な分岐点で物語の方向性をスマートフォンを使って素早く決定することができます。

物語の分岐を含む映画の主な問題は、対話型要素が持つストップとスタートを行わなければならないという性質でした。わたしは物語に没頭する際には、次に起こることを選択するためにコントローラやリモコンを持ちたくありません。視聴者に新しい道を選択するオプション(「このボタンを押してください」、「X、Y、Zに投票する」)が提示されるたびに、物語自体とそこへの没入感は一時的に中断され、再び没入感を得るまでに時間がかかってしまいます。

リアクティブなコンテンツは受動的な対話性、つまり一時停止したり、積極的に意思決定をしたり、ハードウェアを操作したりする必要のない入力と出力を可能にすることで、これらの問題を解決できる可能性があります。その結果として、特定のユーザーとその感情によって展開が左右されながらもシームレスに展開する、分岐型の動的な物語が誕生するでしょう。受動的な対話機能は、双方向型体験の欠点となることが多いゲームのような感覚を取り除き、視聴者を物語に没入させてくれます:双方向的で動的な物語にしっかりと参加をしてはいますが、この場合ははるかにさりげない方法で行われます。

Melitaのスクリプトを読んでいるうちに、私はキャラクターがユーザーと接し始め、ユーザーの鼓動と仮想世界のオブジェクトとの間に同期性が生まれるシーンに特に驚きました。物語の謎が解け、Melitaのキャラクターの言葉がさらに深い意味を帯びると、ランダムに点滅し脈動しているように見える景観の各部分が協働し、ユーザーの鼓動を模倣し始めたのです。

2013年、英国のAnglia Ruskin UniversityのJane Aspell氏とスイス連邦工科大学のLukas Heydrich氏は、画面上のキャラクターと鼓動を同期させることで、ユーザーが作品に参加している感覚と、仮想アバターを自分と同一視する感覚を劇的に高めることができると証明しました。バイオデジタルにおける同期性・没入感・物語への感情的な関与の関係性は、革命的な展開とストーリーテリングにおける可能性を秘めています。

Image Credit: Tithi Luadthong / Shutterstock.com
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This article originally appeared on Singularity Hub, a publication of Singularity University.

この記事はSingularity Hubに掲載された記事を翻訳したものです。