マークス&スペンサーのコールセンターの決断はAIの長所を生かした教科書的な事例である

昨日のニュースによれば、小売事業者であるマークス&スペンサー(M&S)は人工知能をコールセンターに導入し、インフラの近代化を図り、対応できる入電数を向上させる取り組みを行うとのことです。

報道によれば、資産の減少が過去数か月にわたってヘッドラインを賑わしてきたM&Sは、クラウドコミュニケーションプラットフォームのTwilioとGoogleのソフトウェアを実装し、コールセンターをよりスマートかつ効率的なものにする計画があるとのことです。

その人工知能ソフトウェアは会話認識を行い、消費者の声をリアルタイムで分析して内容をテキスト化し、電話相手の意図を判断して、電話を適切な部門に再案内することができるとされています。

その技術は、九月末までにM&Sのイギリス中の640の店舗と13カ所のコールセンターでロールアウトされる予定です。新しいソフトウェアによって、以前M&Sのコールセンターで雇用されていた職員は必要なくなります。ただし、ここが重要な点ですが、今回の変化によって誰も失業することはありません。100人以上の従業員はオペレーターの代わりに店舗内での業務が割り当てられたからです。

AIの長所を活かす

M&Sが行った余剰なスタッフをそのままにせず、店舗に割り当て直すという情報は、今回のニュースの中で私にとってもっとも興味深いものでした。

人工知能が登場して以来、人間はひとまとめにロボットと置き換えられるという不吉な予測がAIには付きまとってきました。ただし、最近のプライスウォーターハウスクーパースのレポートなどは、AIが奪う仕事よりもAIが生み出す仕事の方が多くなる可能性が高いと指摘しています。

AIがさらに普及した場合にマーケティングなどの産業に与える影響についての常識的な分析のほとんどは、AIは、データ入力や処理などのもっとも退屈な業務を自動化してスピードを向上させることで、従業員の時間を節約し、クリエイティブな仕事や「人間」の感覚が必要な繊細な作業に割ける時間を増やしてくれると示唆しています。

スタッフをコールセンターから店舗に配置し直すことで、M&SはAIの長所を活かしています。つまり、AIに退屈な作業を任せ、人間のスタッフを彼らがもっとも効果的に働ける場所に展開して、顧客にサービスを提供し、ブランドの顔としての仕事をさせることができるのです。

明確にしておきますが、M&Sの電話業務にも人間のスタッフは残ります。質問や苦情を持って店舗に電話をしてくる顧客に対して、自動化された音声で要件に対応するわけにはいきません。そうではなく、AIは適切な部門に電話をつなぐという単純な作業を行います。

私は以前に、高級ブランドがデジタル戦略を作り上げることの必要性について書いたことがありますが、M&Sはこのことをはっきりと認識しているようです(同社の悲惨な収益状況を考えれば当然のことです)。DIGITは、M&Sのインフラは「デジタル戦略の推進をサポートすることのできない従来型の電話システムの組み合わせを基礎として」作られており、そのため顧客情報を中央に集中させ、顧客を店舗間でシームレスに接続することができなくなっていると報道していました。

対照的に、AIを活用した新しいシステムは一月あたり100万件以上の入電に対処することが可能です。計画通りに展開することが出来れば、M&Sは顧客サポートの規模と効率性を大幅に向上させ、時間とリソースを、それを必要とする業務分野に割り当て直すことが可能になります。

チャットボットではないが、それでもボットではある

もちろん、私が話したのは「もし」の話です。新しい再案内システムがM&Sの抱える問題に対する完璧な解決策になることを妨げる問題がいくつか出てくるでしょう。

今回の件を報道した記事の大多数は(上で引用したDIGITを含めて)、M&Sが採用するAIソリューションを「チャットボット」と表記していますが、これは誤解を招くものだと私は考えています。「チャットボット」という言葉は、テキストを基礎とするボットがチャットアプリを通じて顧客と話をしているイメージを想起させますが、すでに述べたように、M&Sのシステムは電話を基礎とした電話の再案内システムです。

「チャットボット」という言葉は、テキストを基礎とするボットがチャットアプリを通じて顧客と話をしているイメージを想起させます

 

しかし、ボットであることは確かなので、そのことがM&Sの中心的な顧客層である50代以上の人々にとっては問題となるかもしれません。M&Sは、特にアパレルの品ぞろえにおいて、若年層を取り込もうという戦略を取りましたが、M&Sの常連客の大部分はもっと年配の人々で、AIによる再案内サービスに困惑する可能性が高いという事実があります。

Telegraphは「新しいシステムがアクセントに対応できるかは明らかではない」と述べ、SiriやAlexaなどの音声型ボットが過去に、強いスコットランド訛りやヨークシャーアクセントを認識することに苦労したと指摘します。

「ソフトウェアが顧客の言っていることを理解できなかったら、システムは顧客に質問をして、もう一度質問を言い直してもらうことになります」とTelegraphは続けます。これでは理解を求めている顧客のストレスが高まるだけでしょう。特に自分たちがボットに対応されていると知った時にはなおさらです。

しかし、新技術は90%以上の正確性を誇るとM&Sは主張します。
結局のところ、M&Sがイギリスの小売業界に残りたければ、彼らは迅速にモダナイズする必要があります。そして、現代的なインフラを手に入れて長期的に収益を増加させるためには、不満を持つ少数の顧客は犠牲にせざるを得なくなるでしょう。

M&Sは自社が展開する他分野のビジネスにもAIを導入する計画を持っており、AI技術がカスタマーエクスペリエンスと業務をどのように向上させるかを研究するための提携を、Microsoftと結んだことを最近発表しました。

私の考えでは、今回のコールセンターのニュースは、M&Sが、従業員に大きな動揺を与えることなくAIを最大限活用する方法について、正しい考えを持っていることを示しているように感じられます。M&Sがデジタルトランスフォーメーションの取り組みを継続させ、「デジタルファースト」の小売業者になるという目標を追求する中で、M&Sには今後もそうした正しい考え方を持ち続けてほしいと思っています。

 

この記事は、Econsultancy に掲載された「Marks & Spencer’s call centre decision is a textbook case of playing to AI’s strengths」を翻訳したものです。