チェルシーがよりスマートなサッカーコーチングに私たちのAI研究を活用中

最高のサッカー選手とは、最高の身体的技術を持つ選手とは限りません。サッカーにおける成功と失敗を分けるのは、フィールド上で、どこに走るべきか、いつ体を寄せ、パスをし、シュートを打つべきかを瞬時に適切に判断する能力です。では、クラブはどのようにしてプレイヤーが体だけでなく、脳を鍛えるサポートをしているのでしょうか?

私と私の同僚はチェルシーFCアカデミーと協力をし、そうした判断決定スキルをAIを使って測定するシステムを開発しています。私たちは、それぞれのゲーム内での選手とボールの動きを追跡したデータを数シーズン分、分析して、様々なプレイポジションのコンピュータモデルを開発することで、この測定を実行しました。そのコンピュータモデルは様々なプレイヤーのパフォーマンスを比較するための基準を提供してくれます。そうすることで、私たちは個々のプレイヤーのパフォーマンスを他のプレイヤーの行動から切り離して評価することが可能です。

そしてその後、そのプレイヤーがあらゆるケースで違った判断をしていた場合の結果について視覚化します。テレビのコメンテーターはいつも選手のプレイを批判して、自分の理論を証明する方法もないのに、別のプレイをすべきだったと言います。しかし、私たちのコンピュータモデルは、そうした提案がどれほど現実的に正しいのかを示すことが可能です。

もし、ある選手がパスではなくドリブルをすべきだったと批判する人がいれば、私たちのシステムは、その時点で該当のプレイヤーがどれほど疲労していたかなどの要素を考慮して、ドリブルをした場合の結果を見せることができます。私たちは、コーチとサポートスタッフがこのシステムを使って、選手が試合後に自分のプレイを振り返る手助けをして、時間をかけて選手が判断スキルを改善していってくれることを願っています。

判断決定のモデリング

そうしたスキルの評価はいくつかの理由で非常に困難です。第一に、人間は試合中に行うすべてのプレイを記録しておくことは不可能だからです。第二に、あるプレイヤーの行動を別のプレイヤーの行動から切り離すことも困難です。例えば、あるプレイヤーがパスをして、数秒後にチームがボールのポゼッションを失った場合、そのプレイヤーは誤ったタイミングで誤った選手にパスをしたのか、他の誰かのミスなのかは判断できません。

この問題を解決するために、私たちは模倣学習と呼ばれるAIの特殊分野を活用しています。この技術は行動のコンピュータモデル、例えばフィールド上でのサッカー選手の行動のモデルを、莫大な量の過去データを分析することで学習することが可能です。簡単に言えば、このコンピュータモデルは人間のプロ選手の動きを模倣することができるのです。

AIにおけるほとんどの判断決定システム、例えば囲碁などのボードゲームをプレイする際に使われるAIは、学習の強化を基礎としています。そのシステムでは、コンピュータは、適切な行動を取ったというフィードバックを受け取るまで、動きを繰り返し試行することによって、判断決定を学習します。犬にご褒美をあげることで芸を仕込むのと同じようなやり方です。しかし、現実世界のほとんどのケースでは、ボードゲームにおける勝利のような特定の見返りはありません。

このシステムはプレイヤーのポジション、姿勢、疲労度合をモデル化します。Wavebreak Media/Shutterstock

それに対して模倣学習は、プロがどのようにしてタスクを行ったかを検討することで、根底にある判断決定方針を理解しようと試み、その後にその行動を模倣しようとします。プロのサッカー選手をモデル化することは非常に困難です。というのも、彼らは高度なスキルで判断を下しており、注意する対象の判断、適切な反応の選択、他のプレイヤーの行動予測などの判断スキルはコンピュータにプログラムすることが難しいためです。

このコンピュータモデルが現実的なものになるためには、それが基礎とする過去のデータが可能な限り現実世界を反映している必要があります。あるプレイヤーが他のプレイヤーやボールとの関係でどのように動いたかを示すだけでは足りず、彼らの疲労度合やゲームの状況も捉える必要があります。例えば、プレイヤーは攻撃を仕掛けたいのかディフェンスをしているのか、もしくは彼らは勝ちたいのか負けたいのかさえも考慮しなければなりません(トーナメントでは、次のラウンドで楽な相手と当たるために負けたがるチームもあります)。

試合後の分析の変革

パフォーマンスを研究するために使用可能な、それぞれのプレイヤーやボールとの関係性の中であるプレイヤーの動きのモデルを作るシステムはすでに開発しました。いま私たちは、プレイヤーの詳細情報、心拍数(疲労度合の指標)、ゲームコンディションを加えることで、そのモデルをより現実的なものにしようと計画しています。その後私たちは現在のプレイヤーのスキルを評価するシステムを開発し、二年以内に完全に実用化可能なシステムを完成させたいと思っています。

私たちはそれが、選手やコーチがゲームを分析する方法、特に試合後の分析の方法を変えるための一歩となると期待しています。そのシステムは、自分のプレイがどのような展開を生む可能性があったかを観察することを可能にすることで、プレイヤーが自分のプレイについてより深く振り返る手助けをします。
スカウトとクラブも、そうした必要不可欠な判断決定スキルのデータを活用することで、才能のある選手を特定し選び出すことが可能になります。

AIを制限されたボードゲームのような環境から、現実世界での実用化にまで拡張する作業は、いまだにとても困難なものです。しかし、人間は、複雑で変化し続ける状況に適応したり、そこで判断を行うことが得意です。そのため、人間の判断決定を模倣することで、AIは人々が常にルールに従うとは限らない未知の状況における、あらゆる問題に対応することが可能になるでしょう。

この記事は、The Conversation に掲載された「Chelsea is using our AI research for smarter football coaching」を翻訳したものです。