ヘルスケアの仕組みを未来的なものへと変える5つのテクノロジー

自分が旅行好きだと思っているなら、この話を聞いてください。ジョン・ハラムカ博士は年間で40万マイルも旅をしています。この数字は地球16周分に相当します。

ハラムカ氏はハーバードのベス・イスラエル・ディコネス・メディカルセンターのCIOおよび、ハーバード大学医学大学院の教授を務め、救急医としても活躍しています。彼はシンギュラリティ・ユニバーシティが主催するExponential Medicineで公演を行い、現在のヘルスケアの最大の問題だと彼が考えているものや、システムの観点から見て、もっとも有望な技術的ソリューションについて意見を述べました。

「40万マイルも旅をしていると、多種多様な文化や様々な人々に出会います」と彼は言いました。「そして世界のいたるところで同じ問題が起こっています。おそらく文化的な背景やインフラは異なっているのかもしれませんが、問題は非常に似通っています。」

これが減ると、あれが増える

アジアからヨーロッパ、アフリカからアメリカまで、様々な社会が高齢化に対応するための最良の方法を見つけ出そうと試みています。日本はおそらくその最たる例です。「日本では人口の25%が65歳を超えており、出生率は1.4となっています。プライマリケアを行う医師で、その問題を専門にしようとする者はほとんどいません」とハラムカ氏は述べました。

世界中で寿命が延びたことは、医学が発達したことの証ですが、同時にヘルスケア費用の上昇と、慢性疾患を持つ患者の割合が高くなることを意味します。この問題と低い出生率が組み合わさることで、その影響は大きなものとなります。つまり、この高齢化社会のケアを財政面で支える人がいなくなってしまうのです。

その場合のケアとは体のみならず、心のケアも意味します。あくせくした現代生活のペース、ますます個人主義的な文化になったことによる孤立、ソーシャルメディアがもたらした比較や競争の原理など原因は何であれ、不安と憂鬱が蔓延してしまっています。「世界中を探しても、メンタルヘルスの問題に実際にうまく対処出来ている人は誰もいません」とハラムカ氏は指摘しました。

そうした問題はすべて、その解決に取り組む人々、つまり医師が増えれば解決することが可能です。しかし臨床医の不足は深刻で、さらに非常に需要が高い分野を専門とする医師も不足しています。「人々が必要とするサービスがうまく分配されていません」とハラムカ氏は指摘しました。これは特に田舎の地域では問題となります。

最後に、そうした問題を解決するために作り上げたシステムそのものが、今では問題になっています。多くの国々が、医療情報技術における互換性とデータ共有の欠如に対処する方法を模索しています。

ハラムカ氏によれば、世界が必要としているヘルスケア技術の多くは、想像力を必要としたり広範囲に使用可能なものというよりは、実際には極めてシンプルで現実的なものだといいます。

問題解決に貢献可能なテクノロジー

機械学習

ブッシュ政権とオバマ政権で仕事をした経験を持つハラムカ氏は、規制によっていかに臨床医の負担が発生するかを直接目撃してきました。医者が診察のたびに患者のインプラントを確認すべきだと推奨するアメリカ食品医薬品局(FDA)と、診察のたびに渡航履歴を記録すべきだと推奨するアメリカ疾病予防管理センター(CDC)の板挟みにあって、メディケアとメディケイドの分野では訪問のたびに、20個もの健康管理測定を実施することになっている、とハラムカ氏は述べます。「私たちが死ぬ頃には、140種類のデータを毎回の訪問で記録することになるでしょう。その作業を、アイコンタクトを保ち、患者に共感しながら、決して医療ミスを起こさずに行わなくてはなりません。そんなのは不可能です!」

そうした作業に機械学習が役に立ちます。ハラムカ氏は、AIがあなたの主治医の代わりになれるのであれば、そんな医者はAIに変えてしまうべきだと冗談を言いました。私たちが医者に本当にしてほしいこと、つまり私たちの話に耳を傾け、私たちの治療の方針を尊重し、あらゆる可能性を紹介するといった行為は、機械では行うことが出来ないのです。

しかし、AIは臨床医の書類作成の負担を、自然言語処理などの機能を使うことで軽減してくれます。医者と患者の会話を聞いて、メモを取り、グラフを作ってくれるようになったAmazonアレクサを想像してみてください。その際には医者の仕事は確認と署名だけになります。

AIは、外科医が医学的な根拠を理解し、情報を得たうえで判断を下す能力を向上させることもできます。「私の分野では毎週800件もの論文が公開されています」とハラムカ氏は言いました。「読書が少し追いついていません。」

医者が下す判断は、患者に与える抗生物質の決定から、手術室の予約時間まで多岐にわたります。類似した数千件の患者のデータと比較することで、患者が手術室に滞在する必要のある時間を予測することができる機械学習のアルゴリズムを実装してしまえば、ベス・イスラエルでは手術室のスケジュールの30%を空けることが可能になり、手術を受けられる患者の数を増やすことができます。

モノのインターネット

今年の初め、ハラムカ氏は原発性高血圧だと診断されました。彼のライフスタイルと食事は基本的には極めて健康的なものです。彼はヴィーガンでカフェインやアルコールは飲みません。しかし、彼の病気は遺伝的なものだとわかりました。彼の主治医はベータブロッカーを処方しました。「おえっ」と彼は漏らしました。「これはまずいエスプレッソみたいだ。」50ミリグラムのメトプロロールという量は、彼の体格、年齢、性別を考えれば適切なものでしたが、ハラムカ氏は、そうした要素は彼の体のメトプロロールを新陳代謝する能力には関係がないことに気が付きました。

そこで彼はちょっとした実験をすることにしました。服薬量を減らしつつ、彼は家やオフィスのセンサーを使って、自分の気分、エネルギー、血圧、脈拍、などの数値を監視したのです。「私は自分の服薬量を適切な量に調整することができました。最高の結果を得て、副作用も最小に抑えられています」と彼は言いました。「そして、私たちが望んでいるのはこのような医療です。」

近い将来、錠剤を3Dプリントしたり、その効果を家のスマートディバイスを使って測定したり、服薬量を私たちの体にとって最適なものに調整することができるようになるでしょう。

ビッグデータ

ハラムカ氏は、ボストンの地域だけでも26種類もの異なる電子カルテ(EHR)が使われていることを指摘しました。しかし、ヘルスケア記録を交換するためのインターフェースをプログラミングするアプリケーションである、Fast Health Interoperability Resources(FHIR)がまもなく、様々な電子カルテからの情報をまとめ上げる新しい仕組みを可能にするでしょう。患者は単一の電子カルテのサイロだけでなく、人生全体の履歴を閲覧することが可能になります。

「過去のデータが将来の患者ケアにとって有益な情報となってほしい」とハラムカ氏は望んでいます。

彼の韓国人の妻がステージ3の乳がんだと診断された時、彼はi2b2というオープンソースのツールを使って、ハーバードの17の病院からデータを集め、同じがん、年齢、民族の女性に施された治療とその結果を調べました。

彼は、乳がんの治療に使われるタキソールは、アジア女性に使った場合に神経障害(手足のマヒ)を引き起こすことを発見しました。「私の妻はアーティストなので、『君は治ったけど、もう仕事はできないよ』と言いたくはありません」とハラムカ氏は言いました。そのため、彼らは臨床実験を行い、タキソールの量を50%減らしました。現在、彼の妻は元気で日常生活もこなせています。手足は治療前と同様に自由に動きます。こうした用途のためにビッグデータを使いたいと思っています、と彼は述べました。

遠隔医療

ハラムカ氏は、毒キノコと有毒植物の専門家で、毎年900件の遠隔医療の相談を受けています(彼はアメリカの50の州で医療ミスの保険に加入しています)。

彼は、「ここに私のiPhoneがあります。これを使えば世界中から画像や症例を受信することが可能です。バーチャルの交信ですが、人の健康を保つ治療プランを作ることができます。コストも安く、効率的です。そして、田舎や都会に関係なく、アメリカ在住か海外在住かに関係なく、こうした医療にアクセスできることが望ましいと考えています」と述べました。

しかし、課題としては政策が挙げられます。州ごとにライセンスや医療ミスの保険があるせいで、州の境をまたぐことが複雑な状況を引き起こします。例えば、ノースダコタ州のある医師がハラムカ氏に毒キノコについて相談し、ハラムカ氏が何らかの治療のアドバイスをした場合、最終的に治療を施すかを決定するのはノースダコタの医師なのです。

ブロックチェーン

ハラムカ氏は、ブロックチェーンの医療分野における主要なユースケースの一つは、監視とデータの完全性の維持だと考えています。ハーバードの医師たちが医療ミスで訴えられた際に、ハラムカ氏は原告の弁護士から20年分の医療記録を提出するように要求されました。しかし、それが何らかの方法で改ざんされていないことを保証したり、証明することはできません。

ブロックチェーンの監視履歴の機能によって、この問題は解決するでしょう。「ある記録が署名されて、その記録のハッシュがブロックチェーンに保存され、それから20年が経ったとしても、その記録が改ざんされていないことを検証することが可能です」とハラムカ氏は言いました。さらに、ブロックチェーンを使うことで、患者の同意を証明することが可能で、さらには患者がデータを提供したり治療計画に従う動機となる可能性があります。

すでに導入は開始している

ハラムカ氏が概略を説明してくれたテクノロジーとそのユースケースは、数十年先の話ではなく、数年後のことでもありません。それらはすでに実用化され、今日の病院で稼働しています。ハラムカ氏によれば、ベス・イスラエル・ディコネスでは、機械学習を使ってファックスを読み込み、メタデータを適用し、医療記録に情報を挿入するなどしているとのことです。彼らは携帯電話とモノのインターネットを活用して、うっ血性の心臓を持つ患者が自宅で健康に過ごせるようにしています。彼らはデータをコミュニティ中に送信して、患者が治療を受けている場所を追跡し、最高の治療を最低のコストで提供するための支援をしています。

正確な手術を行うことのできるロボットや、稀な病気を数分で診断することが可能なAIは、外科医を不必要なものにするでしょう。実際のところ、適切に応用されれば、テクノロジーによって医者は余計な仕事を省き、病院をもっとも効率的に運営することが可能になるだけでなく、そもそも私たちが病院に行く可能性も減ることになるのです。

Image Credit: metamorworks / Shutterstock.com
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This article originally appeared on Singularity Hub, a publication of Singularity University.

この記事はSingularity Hubに掲載された記事を翻訳したものです。