貧困の撲滅にもっとも貢献するツールとは?それは、データである。

データ革命が進行中です。データは私たちが買い物をする方法や、生活の仕方、さらには恋愛の形にまで影響を与えてきました。しかし、影響を受けていない分野が一つあります。それは統計学の分野で、皮肉なことにデータそのものなのです。世界銀行のリードエコノミストであるヴォルフガング・フェングラー氏によれば、統計学の分野ではデータ革命は始まってすらおらず、つまりは統計学こそが次の革命対象だといいます。フェングラー氏は特に、国連が定めた2030年までの持続可能な開発目標(SDGs)の達成に加えて、貧困撲滅のためにデータをどのように活用することができるかという点に興味を持っています。シンギュラリティ・ユニバーシティで先週開かれたグローバルサミットでの講演で、フェングラー氏は「SDGsに向けてデータ革命を起こすには何が必要になるか?」と問いかけました。

データの価値と複雑性のメタファーとしてよく使われるものが石油です。データは石油から世界でもっとも価値のあるリソースという地位を奪うという噂さえあります。しかしフェングラー氏が指摘するように、データは誰かが抽出・精製して、使える形態にして人々に提供することで、初めて価値があるものになるという点でも石油と似ています。例えば、食料雑貨の購入をトラッキングする一連のコードの状態でデータを利用したところで、小売業者にとっては大したメリットはありません。しかし、実行可能なインサイトを提供してくれる報告書、例えば、25~40歳の人々は火曜日の午後により多くのチョコレートアイスを購入すると示す報告書を読めば、小売業者はそれにしたがって小売価格と在庫目録を調整することが可能です。

したがって、人口、収入、健康、そしてその他の重要な指標についての全世界的なデータが伴って初めて、私たちが持つ世界についてのデータは世界を見るためのレンズとなって、私たちが世界を変えるための行動を起こす道標となるのです。

現在、世界にはおよそ76億人の人口がいます。これは莫大な数に感じられます。しかし、世界の人口はゆるやかに増加しているのでしょうか?それとも急激に増加しているのでしょうか?フェングラー氏はこのように聴衆に問いかけました。そして後者の選択肢の方により多くの手が上がりました。しかし、フェングラー氏いわく、「実際には、私たちが生きている現在では、人口の成長が急激に鈍化しています。1950年からの70年間で、このような人口成長の鈍化状況を迎えたことはありません。」世界の人口は一年あたり8300万人増加しており、ピーク時の1988年には9300万人増加していました。人口それ自体は増加していますが、過去と比べた場合、そのペースは比較的スローになっています。

「人口の増加は教育が原因でさらに鈍化します。教育によって子供を産む年齢が遅くなり、子供を産む人も減るからです」とフェングラー氏は言います。「世界の人口は私が生きている間に40億から80億に増えました。80億から100億に増えたとしても、大したことではありません。」それはすべて、観点の問題のようです。

フェングラー氏の説明によれば、現在起こっている人口の増加は、子供の増加によるものではなく、長生きする大人が増加したことが原因です。過去数十年で、人間の総寿命は120歳からさほど伸びてはいません。しかし、新興市場の人々も今では50歳、60歳、そして70歳まで生きます。「これは私たちが作り上げてきたヘルスケアによるものです」とフェングラー氏は言います。

それから彼は、人口の観点から移行し、収入の観点で世界について検討し始めました。6億の人々が極貧状態で生きています(世界銀行の定義によれば、1人1日当たり1.9ドル以下で生活している人々です)。そして2億人が贅沢な生活を送っています(お金や財政的な心配をする必要のない人々と定義されています)。その2億人のうち、1億人がアメリカ人です。

そうした数字はいささか憂鬱なものですが、フェングラー氏は希望もあると言います。1秒ごと一人が貧困から抜け出しているのです。1秒当たり五人の人々が中流階級に移行しています。2秒ごとに一人が贅沢なライフスタイル(お金持ち)になっています。

「2030年までに世界は貧困を撲滅する方向に進んでいるでしょうか?」とフェングラー氏は尋ねます。彼はその問いに強く興味をひかれ、その進展を追跡するウェブサイトを立ち上げました。World Poverty Clock(世界貧困時計)は、世界中の貧困に関する統計をリアルタイムで示しています。国別のレベルにまで掘り下げることも可能で、地方のデータまでそろっている国もあります。

現在の貧困脱出率は1秒当たり1.1人ですが、十分なペースではありません。2030年の目標に間に合わせるためには、1秒あたり1.6人のペースにする必要があります。

同サイトは国勢調査のデータを基に、それぞれの国における貧困層の人数の基準ラインを設定しています(143か国が過去十数年の間に国勢調査もしくは家庭調査を行っています。調査を行っていない国に対する基準ラインは、収入レベルと貧困層の人数の間の平均的な相関関係を根拠に設定しています)。それから、そうした数字は推論によって現在にあてはめられます(所得は、一人当たりの総支出と同じペースで増加するという前提で行われています)。最後に、World Poverty Clockのデータサイエンティストは、国際通貨基金が行ったGDP成長予想を使って、そうした情報を2030年の貧困状況の予測に反映させます。

もっとも驚くべき発見は次のようなものでした、とフェングラー氏は言います。「私たちの生きている時代で初めて、ナイジェリアがもっとも貧困層の人数が多い国になったのです。」昨年まではインドがこの不名誉なタイトルを持っていました。しかし今では、ナイジェリアの貧困率は、1分あたり6人のペースで増加しています。アフリカ全体でみても、彼らは世界の極貧層の3分の2を占めています。そして現在の傾向が続けば、2030年までにその割合は10分の9になります。

では、こうしたことがなぜ重要なのでしょうか?「私たちは、世界で起こっていることを理解し、私たちが作るべき世界規模のヘッドラインを形成するために、そうしたマシンが必要なのです」とフェングラー氏は言います。
要するに最高の情報、つまり透明性が高く、正確で、信頼のできるデータが、もっとも説得力のある物語、賢い方向性の活動、最大限の情報を得たうえでの政策勧告を可能にし、それらが今度は触媒となってポジティブな変化を生みます。

World Poverty Clockのローンチは、今も感じられる波及効果を生み出しました。ブルッキングス研究所が、同サイトのデータを基にして報告書を発表し、Financial TimesやWashington Postなどがそれを報道しました。
「ナイジェリアのTVで貧困が議論のテーマになったのはそれが初めてでした」とフェングラー氏は言います。「貧困を撲滅するために何をすべきか、そしてナイジェリアの状況を好転させるにはどうすべきか、という議論が継続的に行われています。」

World Poverty Clockの次の目標は、それぞれの国内の行政区分について細分化をすることで、そのデータをより詳細なものにすることです。ローカライズされたソリューションは国家単位のソリューションよりもはるかに効果的です。なぜなら、貧困はしばしば特定の地域に、その地域独特の理由で集中しているからです。

フェングラー氏自身も、データを発表し続けると決意しています。「あらゆる人をカウントすれば、あらゆる人を重要な存在にすることができるでしょう」と彼は結論付けました。

Image Credit: Barmaleeva/Shutterstock.com
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This article originally appeared on Singularity Hub, a publication of Singularity University.

この記事はSingularity Hubに掲載された記事を翻訳したものです。